2016年6月25日土曜日

詩#261 無季節の患者

詩#261 無季節の患者

どこの誰だか名も知らぬ者同士が
無四季の向かい合った病室に潜んでいる
ふたりが喋り続けるのは
閉鎖病棟の輪廻のような
青く削りあげた如輪木にしかないと
冷たさをこじ開けるように
一層穏やかに医師は言った
出会うことのない
不義なふたりの出会いは
能面で廊下を覗き込んだからだった
オレンジに染まる廊下には
匂立つ幼い頃の
大きな夕日の衝突が立ち枯れし
一点透視図のような
伸びたふたりの人影を
不定愁訴が吐き出している
影だけの重なりは
強張りを消失するかわりに
骨張る骸骨の痛み分けをはじめ
ピンドットの血飛沫を
コインドットの血だまりに変えた
蠱惑する看護師の手垢が
夜霧にかざされた時
手すりの赤い涙が慰めるように
ささくれたふたりの口唇に触れた
黙らせていた弱む影は 
無風の止めてしまう命に
本心の生き抜く風鈴を鳴らす団扇を仰いだ
真っ赤な異常事態を知らせる
警報装置のコードブルーが騒ぎ立ち
留まりたいと懇願する
妖影の支離滅裂な存在を感知すれば
幻聴に傾けた耳が堕ちぬようにと共鳴
いつしか夕日は
愛育の青く打ち破れた波を呼び寄せ
黙秘の影をうっすら喋らせた
歪な口元を動かすことなく
過去への相容れない挨拶をさせたのだ
神経伝達物質は決して
辛い記憶の旅はさせない
思い返しても思い出すことの出来ない
自身の脳が廃棄された記憶
決して口にしない
あの季語とその時節
震えて溢れかえる無の季節に
僅かに残された神経伝達物質の
燃え滓さえも燃え尽きてしまった僕の精神
学帽を深く被る影の涙は真っ白で
それはシナプスが棺桶を覗き込んだ
死化粧の白粉だった





#怖い詩

#エロい詩

#官能的な詩




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